はじめに
最近、とくにビジネス関連の本や動画を観ていると「多様性」や「ダイバーシティ」が大事だということを耳にします。でも、「ダイバーシティがイノベーションに大事」なんて言われても、意味不明だと思う人も多いのではと思います。そこで今回は、「どうしてダイバーシティがイノベーションに大事なのか」の「なぜ」の部分を生物学的観点から解説します。
構成は、①生物学でなぜ多様性が大事なのか、②アイディアの多様性が企業を長生きさせる、③Ideoという面白い企業となっています。
同じ内容の動画もあるので、「観て学ぶ」方が得意な方(visual learner)はそちらをどうぞ。
生物学における多様性

みなさんは、「ダーウィンの進化論」を聞いたことはありますか?生き物が、環境に適した形に進化していく過程を解いた理論です。
例えば、ある島にたくさんのハツカネズミが住んでいるとします。大きなネズミ、小さなネズミ、走るのが早いネズミ、顎が頑丈なネズミ、いろいろいます。
ある時期を境にこの島はほとんど砂漠状態になり、食べ物が少なくなってしまいました。しかし、島に生えているサボテンの中に、栄養価の高い実が入っています。サボテンには棘が生えているので、ほとんどのネズミたちは近寄れないのですが、何匹か、とても分厚い皮膚を持っていて、サボテンの棘に屈せずに中の実を取り出し、食べることができるネズミがいます。
栄養不足で多くのネズミたちが滅びていくなか、分厚い皮膚を持ったネズミたちだけが生き残ります。生き残ったネズミたちは子孫を残し、分厚い皮の遺伝子が次の世代へと受け継がれていきます。つまり、環境により、分厚い皮膚を持ったネズミたちが選ばれたのです。
環境が砂漠状態で、サボテンの中に栄養価の高い実が入っている状態だったので、皮膚の分厚いネズミが生き残りましたが、環境が違えば、違った特徴をもったネズミたちが生き残ったわけです。例えば、島が砂漠状態ではなく、豪雨により湿っぽい環境になっていたら、泳ぐのが得意なネズミが生き残っていたかもしれません。疫病が流行っていたら、その疫病に耐性のあるネズミが生き残ったはずです。言い方を変えると、多様性があるからこそ、ネズミという種がこの島で絶滅の危機を逃れることができるのです。
アイディアの多様性が企業を長生きさせる

妙な話ですが、企業という組織にも同じことが言えるのです。
例えば、「老人向けのパソコン」を開発中の二つの会社、A社とB社があるとします。それぞれ社内のみで商品開発を行うとします。 みなさんは、より優れた「老人向けのパソコン」を開発できるのは、どちらの会社だと思いますか?
A社の10人の社員は全員男性で、みんなMBAを持っている優秀なビジネスマンたちです。
B社の10人の社員は様々なバックグラウンドを持っています。 不良、専業主婦だった女性、老人、 ビジネスマン、外国人など、色々な意味で多様性に富んでいます。
私は、B社の方がより良い商品を作ることができると思います。
A社の場合は、みんなビジネスの知識も豊富で効率よく仕事をこなせるものの、実際に老人がどんな生活をしているか、テクノロジーのどのような壁があるのかがわかりません。つまり、商品開発に必要な大事な情報がかけており、コミュニティ全体が、個人の能力(知識)とイコールな状態です。
B社の場合は、チームに老人たちがいるため、そこから日々の生活がどのようなものか、どんなときにパソコンをつかいたいのかなど、ニーズを学ぶことができます。専業主婦をしていた女性たちは、介護の経験があり、新しい視点から商品開発に向けたアイディアに貢献できるかもしれません。外国人の社員たちは、自国では老人がどのようなテクノロジーを使っているかなど、大事な情報をシェアできるかもしれません。チームとしての能力は、個人個人を見た時よりも圧倒的に高いのが多様性に富んだグループです。
また、変化の激しいこの時代、先ほどのネズミたちが住んでいた島の例のように、どんなことが起こるかわかりませんよね。例えば、男性だけがかかる疫病が流行った場合、A社は絶滅してしまいますが、B社の何人かは生き残り、会社を続けることができるはずです。会社全体としては、多様なB社が変化につよいのは想像がつきます。
この考えを取り入れている、面白い会社
Ideoというイノベーションコンサルティング会社があります。
たとえばクライアントから、「もっと良い歯ブラシをデザインして欲しい」「もっと良いショッピングカートをデザインして欲しい」などの依頼を受けます。依頼を受けたら、多様なバックグラウンドの人材をプロジェクトチームに入れます。
医者、心理学者、エンジニア、先生、老人、若者、違う文化的背景を持った人々などが集まります。様々な人々の意見を聞いて、商品をデザインしていくのです。
生物学のコンセプトを取り入れた興味深い会社だとおもったので、この情報をシェアしました。
このトピックに触れた理由
大学時代に生物学を勉強していて常に感じていたのは、「論文や生物の教科書は面白い内容のものが多くあるけれど、生物を専門的に勉強していない人には理解しがたい」ということでした。しかし生物学のコンセプトには、社会や人間関係に応用できることも沢山あると思います。
今回のブログ記事と動画の参考資料は、私の大学時代の恩師のTedXトークです。彼の話す内容の中から、「もっと多くの人に知って欲しい」と思う内容をピックアップし、生物学を学んだことのない人々にも理解できるよう専門用語は省きました。
元のビデオには興味深い他の内容も入っているので、気になる方はぜひ観てください。アメリカの大学生気分も味わえます(笑)